国文学の課題で、オススメの文学作品をレビューする的なものがあった。

文学作品どころか本をそんなに読まないので、非常に困っている。

そんななか、唯一「面白かった」「これに関しては語れる!」と思った作品が宇佐見りん「推し、燃ゆ」である。

芥川賞を受賞した作品がまさかのアイドルオタクを題材にしたものだと聞き、ジャニオタとして非常にきになり、やっとのことで手に入れた。

タイトルと帯をざっと見て「推しが女を殴って炎上した」ということが分かった。
おそらくその「推し」がどうして女を殴ったのか、そのいきさつを追うサスペンスてきなものか、もしくはネット社会の現状を突きつける社会派小説なんかなあー
と、思っていた。



全然違った。


ストーリーのなかで、「推し」がなんで女を殴ったのかは最後まで分からなかった。
燃えた推しを追い続ける少女、あかりが、ただひたすらに、過ぎていく日常を言葉にした独白みたいなものだった。

ストーリーにはそこまで波がなく、あったことを淡々とあかりが口語体で記している感じだ。語り手が主人公なのは、現代の小説では当たり前らしいが、昔の小説ではありえないことだったらしい。二葉亭四迷とか、坪内逍遙が、言文一致の運動を起こしたのがきっかけで、今の小説のスタイルが決まったとかうんたらかんたら、

何のはなししてたか忘れた。


そう、そんで、あかりがひたすら語るって話で、特にお話は波もなく、極めて普通。
推しが女なぐる→炎上→引退という、シンプルなもので、並行してあかりが推しについて語り、懐古し、時間軸に合わせて自分の生活を報告するーみたいなお話。



じゃあどうしてこんな心に残るんだ、
マジで推し燃ゆ読んだのが3月くらいなんだけど、三回くらいは読み返してるし、鉛筆で気になる部分に線引いたり、レビューみたりしてる。

この本のすごいところは、ストーリーではなく、感覚を言葉にするところ だと個人的に思う。

普段何気なく感じていること、うまく言葉にできない感情を、宇佐見さんはとても適切に、ズバっと、言葉にする。あぁ、それそれ、その感じよ、分かる。とても分かる。と、思わず手をたたきたくなる。本を読んでて気持ちいいな、と思うのは、眠っている感覚をうまく言葉に昇華してくれたのを感じるときなのかもしれん。


例えば、この文

「どんなときでも推しはかわいい。甘めな感じのフリルとかリボンとかピンク色とか、そういうものに対するかわいいとも違う。顔立ちそのものに対するかわいいとも違う。どちらかといえば、からす、なぜ鳴くの、からすはやまに、かわいい七つの子がいるからよ、の歌にあるような、かわいいだと思う。守ってあげたくなる、切なくなるような、かわいい、は最強で、推しがこれから何をしてもどうなっても消えることはないだろうと思う」


いやめっっちゃ分かる。そうそう、そうなんですよ、推しへの「かわいい」はこれなんだよ、如恵留くんかわいい、阿部ちゃんかわいいって、男がなんで可愛いんだよ、かっこいいだろ、っていやそうなんだよ、カッコいいんだよ、だけど愛おしいが勝つ、見た目そのものがかわいいんじゃなくて、存在がね、、!!!

というように、非常にわかる!!といいたい文章を書いてくれるんですよね宇佐見さん。この人ももしやドルオタなのか?

あと、比喩が上手い。
「プールの水はどこかぬるついている気がする、垢や日焼け止めではなく、

もっと抽象的な、肉、のようなものが」



すごくないですかこれ、一瞬、は?って思うけど、分かっちゃうんですよねなんか。


そういう文章そのものが散りばめられているから、読んでて気持ちいいし、退屈しない。あかりが自分の代わりに世界を見て、狙い打ちしたみたいに言語化してくれる。
とても良い文学体験をしてるなあ、と思う。


こっからはアイドルのオタクとして感想を書きたい。まず、SNSの描写上手すぎる。
あかりが地の文で語っている口調と、ブログでの言葉の浅さが違うのが面白い、SNS人格っていうのかな、デジタルとリアルで人が微妙にずれるみたいなのも丁寧にかかれていた。
あと、炎上の様子がとてもリアル。オタクくさい独特な文面とか、噂だけが一人歩きして燃え広がる、ネットの波に溺れて、現実との区別がつかなくなる追体験


それから、何度か使われている
肉と背骨というキーワード。あかりは最初の段階では、肉の部分をそいで、背骨に集約させていきたい、そのきつさを求めている、と、推すことのためにほかの生活の要素を絞りとるのが快感、みたいなこといってた。けど、ラストのところで、「中心ではなく全体が、あたしの生きてきた結果だった、骨も肉も、すべてがあたしだった」
って、いってる。推すことでしか自分を認識できない、自分を許せないあかりが、肉の部分つまり、推す以外の部分も自分だと気づいた、
この部分よんで、勝手だけどこのお話はハッピーエンドなんかなーとおもった。
推すことがすべてで、その他の世界なんていらなくて、毎日皺寄せに苦しんでいるあかりが、ようやく目覚めた、のかもしれないいや間違ってたらごめんだけど。

最後に四足歩行しながらも綿棒拾ったってところも希望がみえてた。


推しが女を殴ったことを自分の今までの生き方を破壊することに繋げてたのが、タイトルの伏線回収なんかなあ、、と。



とりあえずごちゃごちゃいったけどこのブログから少しずつ言葉ひろったらそれなりに国文学の課題も埋まりそう!推し燃ゆ万歳!!わーい!!